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2013_08_31
今回は仕事で、とある施設で行われたベッドから車椅子へなどの移動介助についての学習会に講師として行ってきました。
理学療法士としてよく受ける講義依頼は、「移動介助のコツ」であることが多いです。モノを移動させるのとは違い、人を移動させる介助術は、必ずコツがあります。それは柔道の技のように小柄な選手が大柄な選手を投げる技に近いかもしれません。講義ではそのコツをお教えするんですね。そうすると今まで必要以上に頑張っていた介助者の方の力がスッと抜けたりして、安全で楽な介助を行えるようになったりします。もちろん人が人を介助するのですからどうしても限界はありますが、それでも力だけで行っていたやり方に比べればその差は歴然としています。

コツの一つは、重心誘導です。対象者の方の重心をどう動かしていくかということです。ケース・バイ・ケースで違うとはいえ人は上手く重心誘導をしてあげれば、介助者がそんなに力を使わなくても案外スッと動くものなのです。そしてそれは安全な方法でもあり、また介助者にとっても楽で安全な介助方法なんですね。

ところで「人が人を」、「ここから、そこへ」移動させる「移動介助」というものは、どうしてもリスクがつきものです。
先日私の職場でもリスク管理についての研修がありました。
事務方である上司は、リスクをしっかり管理し、問題が起こらないようにすることが大事だという視点でお話をされていました。
しかしそれは、書類を相手に仕事をしている場合であって、人を相手にしている以上はリスクをゼロにするのはムリなのです。いえ、人相手の仕事でなくても、人が仕事をしている以上リスクをゼロにすることなんてできないのです。

私の仕事である理学療法の分野でも、今回の生活介助の分野でもリスクというのはなくしてしまうことはできないのです。
逆に言うと、リスクを回避するためには、「何もしないこと」しかありません。

リハビリテーションでは例えば病気で歩けなくなった患者さんの「歩きたい」という気持ちに寄り添って、転倒の危険性を理解した上で、歩行に向けて練習を進めます。
転倒、骨折というリスクを回避するなら、「歩行練習はしない」とう選択しかありません。
また医師の世界でもそうでしょう。動脈瘤が見つかって、それが出血しないために処置をするとしましょう。そうするとその処置をすることで手術中に何か他の問題が発生するかもしれません。
そのリスクを回避するなら、動脈瘤の予防的処置はしないということしかありません。

介助の世界で考えてみましょう。
ベッドに寝ている人を起こし、ベッドに腰掛けてもらい、さらに車椅子に乗り移る。この一連の動作の中に多くのリスクがあります。起こしている最中に骨折があるかも知れない、座っている最中に転倒するかも知れない、車椅子への移動中に体が崩れて床に倒れてしまうかもしれない。
これらのリスクを回避するなら、「じっとそのままベッドに寝ていてもらう」ということになってしまいます。そういう理屈になると現実的ではありませんね。

このようにリスクは回避できないのが普通です。だからといって、リスク管理が必要なわけでもない。
では、どうしましょう。ここは間をとるしかないですね。

■できるだけリスクを少なくするため例えば介助の分野においては、個々の事例に沿った安全かつ効率的な介助方法を周知し、時にそれを再確認する作業を行う。
■万が一問題が発生した場合は、個人の問題として処理せず、組織として対応する。

結局「完全にリスクをなくす」という目標がナンセンスなんでしょう。
「人の介助にリスクは付き物。それを最小限に留めるための知恵と技術」をいつも模索するほうがずっと現実的で具体性があるといえるのではないでしょうか。
リスク管理、リスク管理とストイックに言うことが、逆に自分たちを雁字搦めにしていることに気付かないといけません。

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西村 猛(管理人)

西村 猛(管理人)

”触らない”理学療法士(子供の発達、特に座る、立つ、歩くなどの運動発達が専門)。コラムLatte専門家コラムニスト。 姿勢の悪い子供を減らしたい!という思いから、一般の方に向け、子供の姿勢発達や体作りについての情報提供をおこなっている。「分かりやすい解説」が好評で、マスメディアをはじめとする様々な媒体からの取材も積極的に受けている。 ■研究分野:子供の姿勢、幼児の体作り、発達障害児の身体的発達と課題